取材協力:2022.3
業務プロセスの統合的な基盤として選択したSalesforce
Excelに慣れた現場への適用に欠かせないRaySheet
ヤフー株式会社様
※ 事例記事の内容や担当者所属は取材当時のものです。最新の情報と異なる場合がございますのでご了承ください。
日本最大規模を誇るポータルサイトであるYahoo! JAPANを運用するヤフー株式会社では、ヤフー株式会社と株式会社GYAOが協力して運営する動画配信サービス「GYAO!」のバックオフィス業務におけるプロセスの全体最適化を図るべく、業務基盤としてSalesforceを採用し、入力および情報の可視性を高めるための仕組みとしてRaySheetを導入している。その経緯について、ヤフー株式会社 メディア統括本部 映像サービス事業推進本部 業務改善推進室 清宮 寛司氏および同部 宮内 聡実氏にお話を伺った。
【課題】バックオフィス業務の改善に向けて基盤となるツールが必要だった
Zホールディングス株式会社の子会社の1つとして、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を中心に、eコマース、検索、ニュースなど約100のサービスを提供しているヤフー株式会社。各種サービスを合わせた月間ページビューは840億、約8600万人が利用する日本最大級のインターネットサービス企業として、ネット業界を強力にけん引する存在だ。
そんな同社が手掛けるサービスの1つに挙げられるのが、「GYAO!」だ。この「GYAO!」を支えるバックオフィス業務には、予算管理をはじめ、コンテンツ編成や戦略策定、コンテンツ調達、入稿および配信、そして取引先への支払・請求業務までその範囲は多岐にわたっているが、それぞれの業務プロセスで異なるツールを使いオペレーションを行っていたため、全体を統一・最適化された管理ができなかった経緯があると清宮氏は語る。
「業務プロセスごとに個別最適化された形での運用では、部門間のコミュニケーションやデータの授受が十分ではなく、業務に必要なツールもバラバラだったことで多重管理が発生し、業務そのものが属人化していた状況が続いていたのです」。
ビジネスが拡大を続けるなか、それでも運用を続けてきたが、業務プロセスにおける作業の抜け漏れや登録の不備といった課題が顕在化し、生産性への影響も危惧されていたという。そこで、全プロセスの業務管理を基盤となるシステムに集約し、データを一元管理することでプロセスの作業状況を見える化し業務課題を解消するプロジェクトが2017年に始動した。
Salesforce/RaySheet導入前の課題
- プロセス間の情報の受け渡しが煩雑で作業の抜け漏れが発生
- 業務プロセスごとにExcelや異なる業務ツールにより情報が属人化してしまう
- 取引先や契約に紐付いた情報を一元的に管理するシステムが必要
【選定】Excelライクな見た目と利便性の高い環境が提供できるRaySheetに着目
業務ごとに個別に導入、運用していたツールを統合するためのシステムを選定するにあたり、当時の現場の作業状況を振り返る清宮氏は、「もともとプロセス管理のために複数のツールが存在しており、予算管理表や編成表といったものはExcelを中心に個別の管理が行われていました。精算業務に関しても、古いシステムでは複雑な契約パターンに対応していないこともあり、結果としてExcelを駆使して業務をカバーしている状態だったのです」と振り返る。そこで、オペレーション全体が一気通貫で把握でき、承認管理を含めたガバナンス強化に資する仕組みとしてSalesforceを選択。
「クラウドサービスであれば少数精鋭で運用できますし、開発期間も短縮できる。他社導入事例も多く、パッケージ製品であり基本機能の利活用により開発工数をおさえられて、リリースまでの期間を短縮できる狙いから選定に至りました」とのこと。
ただし、サンプル画面を用意してSalesforceにて運用可能か現場の担当者にテスト的に触ってもらったところ、Salesforceの基本機能だけでは運用が厳しいという意見が寄せられた。
「業務プロセスを一気通貫にすると各プロセスに必要なデータを漏れなくシステムに保持する必要が出てきます。そのためユーザによる入力データ項目が増えてしまったのです。膨大な数の映像コンテンツ契約があることから、少しでも入力の手間を減らし、かつ視認性もよくする必要がありました」と清宮氏は言う。
そこで選択したのが、グレープシティが提供するRaySheetだった。「Salesforce上で動作する他のソリューションも検討しましたが、よりExcelライクな見た目と利便性の高い環境が提供できると考えたのがRaySheetでした」と清宮氏。
例えば、映像コンテンツの調達担当者は、契約する映像コンテンツの一覧をExcelで作成し、取引先と交渉するのだが、交渉後のコンテンツをシステムに登録する際に、元のExcelからRaySheetにそのままコピー&ペーストしたり、登録されたコンテンツを交渉状況でフィルタリングしたりといった操作がExcelのように行えることが、入力の負荷軽減や視認性の向上につながるという。RaySheetはこうしたExcelの機能の再現性が高い点が評価された。
また、映像コンテンツは件数が多く、複数レコードを一覧表示・編集できることが必須要件だった。修正対象条件に合ったコンテンツの一覧画面をVisualforceで実装するのは、かなり工数がかかるが、RaySheetの「どこでもView」により設定作業のみで、条件にあった一覧を表示させたいページに埋め込むことができるため開発期間の短縮につながると判断した。
さらにデータの一気通貫により複数の部門が同じシステムを利用することで、部門ごとに表示が必要な項目とそうでない項目、作業しやすい項目の並び順なども考慮し、それぞれの部門で使いやすい画面を開発しなければならなかった。RaySheetはこの要件にも容易に対応できたという。
「RaySheetは、SalesforceのオブジェクトごとにRaySheetビューを複数パターン作成できます。Salesforce上で設定したプロファイルとページレイアウト、それにRaySheetビューを組み合わせることにより、さまざまな要求に応じたUIを実現することができました。運用開始後、業務の見直しなどにより表示項目の変更をする際も、他部門に影響なく変更することができる点もよかったです。」
結果として、業務プロセスを一気通貫で管理できる環境として、SalesforceおよびRaySheetの組み合わせを採用することになったのだ。
【効果】Salesforceを業務基盤として定着させるために欠かせないRaySheet
■ バックオフィス業務全般でSalesforceを活用、全体の3分の1にRaySheetを展開
現在は「GYAO!」のバックオフィス業務全般でSalesforceが使われており、100名ほどのメンバーが日々の業務に役立てている。なかでも編成や調達など上流工程においてデータエントリーおよび進捗状況などの情報更新時にRaySheetが活用されており、基本的には各画面に「どこでもView」としてRaySheetが埋め込まれ、全体の3分の1ほどの画面に使われている。
「取引先との契約にコンテンツが紐づいており、多い場合だと1契約あたり2,000件ものコンテンツを契約するケースもあります。Salesforceの詳細画面は使わず、コンテンツ情報は全てRaySheetを使っている状況です」と宮内氏は説明する。
具体的な業務フローについては、Salesforceにて編成部門が予算管理表を作成し、調達してほしいコンテンツ情報を調達依頼画面に埋め込んだRaySheet上で登録し、調達チームに対して調達依頼を実施するコンテンツごとに調達金額を入力すると、予算管理表の数値が増減することで予算状況が可視化できるようになる。調達依頼をメールで受け取った調達チームは、コンテンツ調達に関する交渉を取引先と行っていくが、交渉締結後は契約に関する情報や入稿の際に必要な情報を各種入力していく。
「1つの契約で複数のコンテンツを調達するため、一覧として表示、管理できるRaySheetをうまく活用しています。契約条件や入稿情報など60を超える数の項目をコンテンツごとに入力しているのが現状です」と宮内氏。
そして、コンテンツを入稿するチームに入稿依頼を行うと、入稿準備依頼ヘッダ内に依頼ごとに必要な情報をRaySheetで表示させることで、余計な情報をフィルタリングしたうえで一覧画面から入稿情報が確認できるようになる。
■ 業務プロセス全体の最適化を推進、作業品質の向上寄与
SalesforceおよびRaySheetにて統一的な業務基盤を整備したことで、これまで個別最適化された環境から脱却し、業務プロセス全体の最適化を進めることができたという。「特にプロセス管理における事故が発生しなくなり、作業品質も大きく向上しています。管理負担の軽減については、BPRも含めての効果ではあるものの、システム導入以前に比べて一定の評価が得られています」と清宮氏は評価する。
また、各プロセスの前後で情報活用が可能となっており、編成や調達など担当者ごとに見たい情報だけを表示させることもできるようになった。Salesforceのプロファイルやページレイアウトなどを駆使することで、使い勝手の良い仕組みが整備できていると高く評価する。
RaySheetについては、Salesforceを業務基盤として定着させるために欠かせないものだと清宮氏は説明する。「RaySheetのExcelライクな仕様により、現場や業務のギャップが吸収できて新システムの定着化に繋がりました。また同じ環境をSalesforceで開発実装すると多くの工数がかかるのは間違いありません。その意味では、開発工数の削減にもRaySheetが貢献しています」と評価する。
また使い勝手の面でも評価の声が寄せられている。「データの一括編集はもちろん、コピー&ペーストするなどSalesforceだけではできないことが容易にできるようになり、業務の効率化につながっています。RaySheetは埋め込みたいページに容易に展開でき、色分けできるため視認性も高まっています。グルーピングして表示するなど、使い勝手の良さが魅力です」と宮内氏。
さらに、クラウドサービスとして提供されるRaySheetだけに、バージョンアップによって便利な機能が新たに追加されるたびに、現場の利便性向上に大きく役立っているという。
「バージョンアップによってRaySheetにて行項目のグルーピングが可能になったり、項目に対してヘルプが付けられたりなど、非常に便利になってきています。特にマニュアルを参照せずとも項目にヘルプが付けられる機能は、今後の業務改善にも大きく役立つはず」と宮内氏は評価する。
なお、RaySheetについては、管理者権限を使って設定画面から自身で変更してみることはもちろん、開発ベンダーに話を聞くなどさまざまな場面でナレッジを学んでおり、項目の追加や見栄えの変更など簡単なものについては宮内氏自身が行う機会もあるという。
実は同社においてRaySheet導入は清宮氏の部署が初の試みだが、その利便性の高さからSalesforceを先行して実装していた他の部署にもRaySheetが広がっている状況にある。
■ さらなる使い勝手の向上と法務相談プロセスの実装も視野に
今後については、現在でも多くのメンバーがSalesforceおよびRaySheetを使いこなしているものの、個別最適化された以前の使い勝手に近づいていけるよう改善も続けていきたい考えだ。「Excelでの作業はまだ残っている部分があり、データ登録作業負荷などの課題もあります。業務プロセス間の手作業をできる限り削減し、よりシームレスに全体業務プロセスが流れるようにしたいです。」と清宮氏。
また、現在実装した編成から精算までのプロセスだけでなく、契約に関する法務相談のプロセスをSalesforceおよびRaySheetの業務システムに取り込むことを検討しているという。「映像コンテンツ提供契約の許諾状況を社外の取引先と共有するようなプロセスは、現状メールに添付したExcelで共有しています。今回の業務基盤上で取引先と情報共有できるような環境づくりは検討したい」と宮内氏。
現在「GYAO!」では動画コンテンツ配信を中心としたビジネスが中心だが、新たな業務プロセスへの拡張についてもSalesforceおよびRaySheetへの期待度は高い。「社内ではバックオフィス業務を行っている他のサービスなども当然数多くあります。我々自身の業務プロセスは少し特殊で転用できる部分は少ないものの、例えば契約管理など汎用的に使えそうな部分はぜひ他への展開も含めて活かしていきたい」と清宮氏に今後について語っていただいた。
Salesforce/RaySheet導入効果
- 編成から精算まで統一的な業務基盤を整備したことで、業務プロセス全体を最適化
- 調達状況や予算・支払金額を契約画面上で参照・編集・登録できるため使いやすい画面を実現
- RaySheetによりカスタマイズに比べ、Salesforceの画面開発工数を大幅に低減